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「隣のノースタス」

06 23, 2011
ノースタスの説得に失敗して、ユリリエ殺害失敗ルート後のお話です。
主人公の我が強いので、ご注意ください。

タイトルセンスが皆無だ……!
****

篭もりの間に、彼女と同じように髪を長く伸ばした。
彼女が使っている香炉を取り寄せて、彼女と同じ香りを纏う。
彼女が好む衣裳を着て、同じ色のストールを羽織って。

結局のところ、私は彼女になりたかったのだろう。私の中で渦巻くこの憎悪は、かつて彼女へ抱いた愛情の裏返しなのだから。

ユリリエ・ヨアマキス=サナン。
私は彼女を憎んでいる。

****

篭もりに入る前の、子ども時代の最後の日。私は短剣を忍ばせて、彼女を中庭へ誘い出した。
その目的はもちろん、彼女の命を奪うことだ。かつて私を痛烈に批判した彼女に、思い知らせてやるために。又がけすることは不実だと、よくその口で言えたものだと私は逆上した。

けれどそれは、あっさり失敗することになった。こちらの意図などお見通しだったのか、彼女は事前に護衛を連れてきていたのだ。藪から現れた長身の衛士が、剣に手をかけて私を諌めた。

お気持ちは分かりますが、何も生まぬ行為です。

去り際に、男はそう囁いた。その瞬間、冷めかけていた感情が熱く滾るのを感じた。私の誘いを断り、同じように彼女に裏切られた身でありながら、この期に及んでよく護衛ができたものだと。

その男の顔など、二度と見たくはなかったのに。
篭もりが明けてみたら、その男はなぜか私の護衛に着任していた。

「……やはり、女性を選ばれたのですね。あのときのことを覚えていらっしゃいますか?」

「私が……貴方の誘いを断ったとき、私はこう言いました。女性を選ばれたら、否応なしに諦めがつくと」

「少なからず、責任を感じているのです。あの言葉が原因で、貴方は女性を選ばれたのでしょう?」

……何を自惚れたことを。
私は近くにあったクッションを投げつけて、言葉のかぎり男を罵倒し、篭もりの間に募らせていた恨みを全部ぶちまけてやった。

ノースタスは、それでも私の護衛になると言い張った。

****

「もう駄目。限界よ! これ以上やったら……肋骨が折れちゃう!」

衣裳係の男が甲高い悲鳴を上げる。私の目の前には、以前から仕立てさせていた衣裳がぶら下がっている。
私のコルセットを締め上げていた衣裳係は、もうお手上げだとばかりに、コルセットから手を離して降参した。途端に私は前へくずおれ、情けない格好で床に這いつくばる。

……まだいけるわ。渾身の力で締め上げるのよ!

くぐもった声でそう言いながら、私は立ち上がって再び衣裳係を促した。しかし、彼は眉根を寄せて首を横に振る。

「だから、これ以上はお体に触りますわ。この衣裳はまた次の機会に……」

おずおずと申し出る衣裳係を撥ね付けて、今度は衛士を二人ばかり連れていらっしゃいと言いつけた。力に自信がある衛士なら、コルセットのひとつやふたつ、イワせることができるだろう。
しかし、彼は困ったように私を見つめるだけで、動こうとはしなかった。私は痺れを切らして、自分で背中に手を回し、コルセットの紐を手繰り上げようとした。

「……レハト様、もう諦めてください。どう頑張ってもその衣裳は入りません」

と、着替え中にも関わらず、見かねたノースタスが堂々と割り込んできて、私に現実をつきつけた。ちなみに、作らせた衣裳は注文通りユリリエと同じサイズだ。それが入らないということは、私が彼女より太……。

い、いやあああ!
今度は私が悲鳴を上げる番だった。手当たり次第に、近くにあった衣裳をノースタスに投げつける。彼はそれでも微動だにせず、投げつけられたものを全部受け止めながら、哀れんだ視線を向けていた。

****

憔悴しきった私を連れて、ノースタスは広間へ足を向けた。気分転換にお茶でもいかがですか、などと言って。

しかし、広間が見渡せる回廊に差し掛かったとき、私はそれ以上進むことができなくなった。視界に入った、あの女の姿。広間の卓で、見知らぬ男と楽しそうに笑いあう、ユリリエ・ヨアマキス=サナンの横顔。

私はとっさに回廊の柱に身を隠し、ノースタスのマントを引っ張って同じように引きずり込んだ。柱の影からその様子を伺い、懸命に聞き耳を立てるが、この距離では聞こえるはずもなかった。
だが、あんなに楽しそうに笑っているのだから、いい雰囲気には違いないのだろう。あの女は、年が明けても相変わらず浮名を馳せている。男をとっかえひっかえしているというその噂は、もちろん私の耳にも入っていた。

ギギギと柱に爪を立て、歯を食いしばって広間を睨みつける。こういうとき、なんと言って割り込んでいけばいいのかしら。この泥棒猫? しかし、相手は男だ。この泥棒兎鹿?

「……レハト様」

と、ふいに耳元に生温い感触が伝わった。同じく身を潜めていたノースタスが、私の耳元で囁きかけたのだ。

「お茶はお部屋で楽しむことにしましょう。それと……爪から、血が」

気がつけば、石柱に赤い跡が付着し、私の指から血が滴っていた。盗み聞きに集中しすぎて、思わず力を込めてしまったのだろう。毎日、丹念に磨いていた爪が無残に欠けている。
しかし、私はノースタスの申し出を受け入れるつもりはなかった。なんとしても、邪魔立てに入ってあの男に水でも浴びせてやらなければ気がすまない。こちらの気も知らずに、見知らぬ男と談笑するユリリエが許せない。

柱にしがみつく私を、ノースタスは必死にひっぺ剥がして連れていこうとした。私が悲鳴を上げて抵抗するので、その騒動に気がついたユリリエが、ちらりと視線をこちらへ向けた。目が合った瞬間、彼女はとても美しく微笑んで、何事もなかったように視線を戻したのだった。

****

昨日食べた焼き菓子が悪かったんだわ。侍女があんまり美味しく焼き上げるから、残らずぺろりと食べてしまったのが悪かったんだわ。二度と糖分を私に近づけないで。夕食もいらないわ。ついでにユリリエと話していた男の素性を探ってきてちょうだい。

私は椅子に腰掛けて、跪いて私の指の手当てをしているノースタスに、次から次へと命令を浴びせる。彼は相槌も適当に、手早く包帯を巻きつけて侍女にお茶を持ってこさせた。

「男の素性を探ってどうなさるおつもりですか。また、陰湿な嫌がらせの手紙を送りつけるんですか? それと、夕食はちゃんと召し上がっていただきます」

ノースタスは、いつだって私の命令を聞き入れた試しがない。言うことを聞かない従者など要らないのに。私はその度に、解雇だ解雇だとヒステリックに言いつけるが、それさえまかり通ったことはない。
私は頭に血が上ると、近くにあったものをノースタスに投げつける癖がある。理不尽なことを怒鳴りつけて、彼が言い返してこないとなると、最終的にかつて私を裏切ったことを持ち出して罵倒する。それでも彼は何も言い返さず、ただひたすら哀れむような視線を向けて黙っている。

なぜ彼は、そんな扱いを受けてまで私の傍にいるのだろう。ここまでくれば、最早なんの義理もないはずだ。かつて私の誘いを断ったのも、常識的に考えれば当然のことだ。なにせ、私は彼女を殺そうとしていたのだから。

お茶の淹れられたカップを手に、その琥珀色の表面に視線を落とす。見慣れた女の顔が、こちらを見つめ返している。そのブルネットの長い髪はあちこち乱れていて、とても見られたものではない。彼女の美しいブロンドとは、似ても似つかない。

……なんて醜いの。

途端に手から力が抜けるのを感じた。持っていたカップが傾き、指から離れて床に落ちる。耳につく音を上げながら、琥珀色の液体と陶器の破片が散らばった。
ノースタスはすぐに近寄ってきて、いつものあの視線を私に向けた。そんな目で見るなと、喉から声が漏れる。見られたくなくて、私は椅子の上で膝を抱え、顔をうずめて視線から逃れた。

すぐ近くで、破片を拾う音がした。

****

断食を続けて半日。
昨晩の夕食と、今朝の朝食を断って寝台に横たわっている。しかし、身体は正直なもので、腹がわびしい声を上げる。

ノースタスは、昨晩私に夕食を食べさせようと格闘したっきり、顔を見せていない。いつもなら老人ばりの朝の早さで寝室にやってきて、暑苦しい朝の訪れを演出してくれるのだが。
ついに愛想を尽かせて、護衛をやめさせてくれとヴァイルのところへ頼みに行ったのかもしれない。それは正常な判断だが、あちらから辞められるとなると、なんだか無性に腹が立つ。

露台の窓から覗く太陽が、一番高いところに昇っている。そろそろ昼食の頃合だ。こんな時間まで寝ているわけにもいかないので、だるい身体を起こして寝台から立ち上がろうとする。
と、ふいに扉を叩く音がした。すぐに聞きなれた声がして、長身の体躯が扉から現れる。ノースタスが昼食の盆を持って運んでくるところだった。

「……今朝も食べられなかったそうですね。あまり侍女を困らせないでください。さあ、昼食は召し上がっていただきますよ」

いつもと変わらぬその態度に、私だけ後ろめたい気分を抱えていたのかと思うと、なんだか無性に悔しくなった。顔を背けて、再び寝台にもぐり込む。ノースタスは盆を机に置いて、私を叩き起こそうと寝台に近寄ってくる。

「……お体の具合が悪いのなら、昼食を召し上がってからお休みください」

布団をひっぺ剥がされて、ノースタスの呆れた顔が視界に入る。纏っていた薄い襦袢がはだけて、あられもない姿になっているというのに、彼は目を逸らす素振りすらしなかった。私を異性として意識していないのか、それとも私に魅力がないのか。どちらにせよ腹が立って、枕を顔に投げつけてやった。

私は渋々と椅子について、昼食と向き合うことにした。たった半日の断食で根を上げたことになるが、ノースタスが食べろ食べろとうるさいし、何より腹が減っては戦はできぬ。広間にいたあの男に嫌がらせをするなら、脳に血を送って手紙の文面をしたためなければならない。

手紙に毛をごっそり詰めて、開いた瞬間あふれ出すというのはどうかしら。虫でもいいけど、生き物は可哀想だし、それに動くから届ける間に逃げてしまうかもしれないわ。
そんな作戦を練りながら昼食を摂っていると、横で佇んでいたノースタスが、深くため息をついた。

「……そのような悪質な真似はお止めください。大体、誰の毛を……」

ノースタスに毛を提供させるよう言いつけようとしたが、ふいに横から伸びてきた手に、私は驚いて言葉に詰まった。ノースタスが、何か小さなものを盆の隣に置くところだった。

それは何?
顔を上げて尋ねると、彼はほんの少しだけ頬を赤らめて、私の詰問から逃れるように視線を泳がせた。

「今日は……市が開かれる日だったので、少し見に行ってきました。レハト様が気に入るか分かりませんが……よろしければ」

朝から顔を見せなかったのは、そんな理由だったのか。ノースタスがその包みの正体を明かそうとしないので、訝しみながら手に取って開いてみると、ふわりと品の良い香りが漂ってきた。

香炉だ。
そういえば、一昨日だかにいつも使っている香炉が切れて(ユリリエと同じもの)、持ってくるよう通いの商人に言いつけたのだが、あいにく切らしていると断られたのだ。

「レハト様がいつも使われているものとは、違うものですが。露店で見つけて、いい香りだと思って……レハト様に、よくお似合いになると……」

言葉切れ悪く、ノースタスがそんなことを言う。珍しく照れている姿が面白くて、真正面から見つめてやるが、彼は目を合わせようとしなかった。

……使ってあげてもいいわ。

私はそう言って、香炉を指で撫でた。昨日から抱えていた嫌な気分が少しだけ晴れて、思わず笑みが零れた。
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